〜 解離性同一性障害の彼女と僕〜
 
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人格の交代を初めて見たときのこと

彼 女の人格の交代を初めて目の当たりにしたのは、
彼女と付き合い始めてから一週間ほどしてからのことでした。


僕らは付き合うと決めてからは、すぐに一緒に住み始めていました。
夜中眠っているとき、彼女の声で僕は目を覚ましました。
彼女はひどくうなされていました。


彼女は、悪夢にうなされることが頻繁にありました。
彼女の見る夢は、僕らのみる夢とくらべて実にリアルなようです。
圧倒的な現実感のある夢。


それは夢と現実との境界線の限りなく薄いもので、
目覚めた後も、夢の中で触られた感触や痛みを感じるのだと、
彼女は言います。


悪夢を見ているのだと思い、からだをゆすり声をかけ、
彼女を起こしました。
目を覚ました彼女は、ひどくおびえた様子でガクガクと震えていて


「助けて!!助けて!!お父さんが、あたしを殴りにくるの」


大丈夫、怖がることはないんだと、
彼女が安心するようできる限り恐怖をやわらげるように
語りかけました。


そうしてしばらくすると、
彼女はだんだんと落ち着きをとりもどしていきました。


泣き止み、すーすーと落ち着いたと呼吸をするようになり、
落ち着いた?と聞くけれど、彼女の返事はありません。

「?」

彼女の目をのぞきこむと、その顔はきょとんとしていて
目をぱちくりぱちくりとさせ、とてもあどけない表情をしています。
身体を小さく丸めて、親指をしゃぶる彼女。彼女が、赤ん坊の人格になってしまっているのだとすぐに察しました。


彼女が多重人格だということは、以前から聞いていたことです。
それでも、はじめてみる彼女の人格の交代だったので、
驚かなかったと言えばうそです。


どうしたらいいのか?彼女は、いったいいつになったら元に戻るのか?
途方に暮れてしまいました。


赤ちゃんのそのコは、僕の親指をしゃぶりはじめ、はなさなくなりました。
(しゃぶるというより、爪をがりがりとかむかんじ)
親指が痛くなってしまい、親指を口から取り上げると泣き出してしまいます。
あわててまた口に戻すと、泣き止み、かりかりと親指遊びを再開しました。


彼女には、他にも多くの幼い人格がいるのですが
なぜだか爪をかじりたがるコが多いですね。
小中学生くらいの年齢のコでは、手やら顔やらに、かみつきたがります。(自分のではなく僕の)
基本人格のコに、理由をたずねると僕をつよくかんじられ、
落ち着くからだと、なんだかそれらしいことを言っていました。


これが僕がはじめて、彼女の人格の交代を目の当たりにしたときのことです。
もちろん、人格が代わる事自体、見る事は初めてのことでした。


ただ、後で聞いた話では、本当はそれまでも
微妙な人格の交代が何回もあったようなんですけどね。


はた目から見たら、それは少し気分の違いで子供っぽくしているだけのように見えたり
気分のちがいで少し雰囲気が違うという風にしか見えず、
その時は人格が交代しているとまでは分かりませんでした。
こういった微妙な人格の交代もあるんです。


明確な交代とはちがい、記憶の共有部分がわりと多いようです。
このときのような、完全に赤ちゃんになってしまう明確な人格の交代の時には、
他の人格たちにその記憶は全くありません。

小一時間ほどで,もとの人格にもどった彼女は、さっきまでの記憶はなく、
ぼろぼろになった僕の親指の爪を見せると

「どうしたのそれ??」

と笑っていました。


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